「お疲れ」


少し遅れてやってきた奏太が、手を上げて席に着いた。


腕時計で時間を確認し、苦笑する。



「待った?」


「んー、どうだろ」


「あぁ、ごめんごめん」


「いや、そうでもないよ」



都会の夜を一望できる一面の窓ガラスに、静かで落ち着いた店内の雰囲気。


ホテルの最上階とくれば、他店とは別世界だ。



「料理、頼む?」


「まぁ、軽く」


「なんか食べてきた?」


「いや、最近そんなに食べないんだよね」


「ふーん。珍しいね」



頷いた奏太は、メニュー表をぐるりと見回した。



「これでいいかな、今日は」



そう言って店員に示したのは、ブレンドコーヒーとデザートのみ。



丁寧に注文を繰り返した店員がその場を去ると、奏太は満足そうに窓へ目を向けた。



「なんか痩せた?」


「そう?」


「疲れて見えるだけかも」


「本当、蒼はそういうのに煩いよな」


「まーね」




こうして会うのもそう久しくないが、それにしては印象が変わったように思えた。


「気のせいだ」と言われれば、そうなのかもしれない。


その程度だけれど。




「ろくに休む暇もなきゃ痩せるよ」


「…そんなに休みないの?」


「休みはあるよ。結局仕事ばっかだけど」


「そう。ならわかるかも」