「眠れないの?」
点滴の雫が落ちていくのを眺めていた季蛍の傍らに、戻ってきた蒼先生が腰を掛けた。
「…眠たくない」
「今日寝てないじゃん」
「……」
「点滴終わるまで」
「……」
「仕方ないなあ」
はにかんだ彼が、頭をそっと手のひらで優しく撫で始める。
「今はいろいろ考えるのやめない?しんどくなっちゃうし」
「……」
「ちゃんと季蛍の気持ちは聞くよ。大丈夫」
ひょっこり覗いた手のひらが、背広の袖を掴んだ。
「なんで わかっちゃうの…」
じんわりと潤む瞳。
温もりを与える手のひらを求める、細くて真っ白な指先。
「わかっちゃった?俺」
季蛍の問いに笑いかけた蒼先生が、指先で優しく頬を撫でる。
まるで何かの魔法のように、突然重たくなった瞼。
彼の体温や声が、安心感そのものなのだ。
今の季蛍にとって。