"強くなきゃ"という決意の意味が、今なら分かる気がする。
彼を苦しめてしまう、辛さを理解してしまう。
自分の中で消し去らなければいけないという意味の、「強さ」だったのだと。
「お。震えてるなあ」
ベッドの端っこに腰を掛けた季蛍の手を握り取った蒼先生は、そう言って優しく笑い掛けた。
「寒い?」
「…ううん」
「すぐ終わるから」
季蛍が頷いたことを確認すると、聴診器を手に足元にしゃがみ込む。
「少し上げるよ」
ブラウスの裾から手が入ると、左腕が背中に回された。
震える体が優しく撫でられる。
表情を伺いながら。
優しく声を掛けながら。
何を話しているのかまでは聞き取れない。
それでも、警戒する必要がないと 安心していることは読み取れた。
やはり診察は僕でなくて正解だった。
今の自分に、蒼先生と同等の安心感を与えられる自信はない。
何を拒むか嫌がるか探りながら接することは、あまりにも負担が大きすぎる。
長い付き合いの上に、信頼関係が成り立っていたとしても。