「入って平気?」
「どーぞ」
スーツに身を包んだ彼は、ベッドの上に持参した毛布を広げた。
「どうなるかわからないな。取り乱すかもしれない」
「そうですか。了解です」
話は電話で聞いていた。
患者の行動が、意図的に消していた記憶を蘇らせたのだと。
ここ数年 こういったことはなかった。
きっと本人ですら忘れていた感情だったのだろう。
常に寄り添っていた彼が、そうであるように。
「該当患者は転院、ですか」
「うん。任意だけど」
「了承したんですね」
「患者の家族がそう希望したんだ」
一方的に体を触られるという怖さが、自分にはよくわからない。
診察時の行き過ぎた接触 というのは、そのことを指していた。
電話越しでは具体的な言葉は濁されたが、嫌悪感を抱く言葉を掛けられていたのだと、彼は少し辛そうに言っていた。
数週間に渡って続いていたのだとすれば、計り知れない精神的苦痛が伴っていたに違いない。
「呼んでくる。いつも通りで頼む」
オッケーサインを示すと、彼は笑った。