背中を何度か撫でられる。
それでも、波を打つような激しい鼓動が収まらない。
「忘れて…ッ」
友人に手を上げられたときの苦しみは、私よりも蒼の方がずっと 辛かったはずだ。
それをきっかけに心が乱れると、辛そうに、悲しそうに 隣に寄り添ってくれていた。
たった一度でさえも、一人きりで苦しんだことはない。
私がそういう顔をしてしまうから。
辛さや苦しさを隠せないから。
「思い出さないで…ッ」
また 苦しめてしまった。
二度とあんな顔はさせないと 誓ったはずなのに。
今、あのときと同じ顔をしている。
「忘れてほしい…」
ツーッと涙が滴り落ちる。
「…わかったから」
指先が頬に触れ、涙が丁寧に拭われた。
辛そうに顔を歪めた蒼は、それ以上 何も言わなかった。