「…眠れなかった?」
伸ばした右手を、そっと頭に乗せる。
払われるならそれでよかったが、季蛍はそれを受け入れた。
手のひらを髪に沿わせるよう、ゆっくりと下ろしていく。
両手の震えが 強さを増した。
「ねむれ、…なかった」
その一言に、すべてが含まれているように思えた。
言葉にならない苦しさが。
耐え難い辛さが。
「…俺が怖い?」
右手は既に離していた。
とても触れられる状態にはないと思った。
それほど 何かに怯えている。
少しの間、忘れていた表情だった。
「そんなわけ…ッ」
と言いかけて、季蛍は俯いた。
「…大丈夫、だから」
そう言われてしまえば、追求することは出来ない。