テーブルの上の携帯電話が振動し、画面に蒼からの着信であることが表示された。




それに視線を向けた季蛍さんは、ティーカップに伸ばした指先を止める。





「出ていいよ?」




「あ、大丈夫です…」





そう言って画面を伏せると、それは上着のポケットの中へ。



それには、思わず陽と顔を見合わせる。




「気使ってる?電話くらい…」




陽もそう言うのだが、季蛍さんは表情を変えずに笑っていた。




「本当に大丈夫です、あとでかけ直します」




意図的に電話に出ないという行為は、季蛍さんらしくない。




ましてや蒼からの着信なんて…。




"何かあったの?"




その言葉を飲み込み、必死に制御する。




聞くべきか、聞いていいものか…




陽が空気を読んでいる気がするので、なんとなく口に出せないまま、「そっか」と返事をした。





「多分、どこにいるか聞こうとしただけです」





表情の曇りように、何かが引っかかる。



それでも、追求することなど出来るわけがない。





「そろそろ帰ります。すみません、遅くまでお邪魔してしまって」



「ううん、たくさん話せて嬉しかった!また今度遊びに来て?」




陽がすかさず返事をすると、季蛍さんはまた笑顔を浮かべるのだ。




「はい、もちろんです」