「トマトスープ、好評だね」
「本当!?嬉しい」
食事を運んできた陽さんに、港くんがそう声を掛けた。
「作ってよかった」
朝から何も口に出来ないほど食欲はなかったが、野菜の優しい味はとても食べやすかった。
体に染み渡っていくようで。
「…港くんは何が好きなんですか?陽さんの手料理」
「何それ、聞きたい!」
箸を持ったまま静止した港くんが、少しの間考え込んでから口を開いた。
「全部美味しいけど、陽が作る餃子が好き」
「…なんで?」
「いや、シンプルに美味しい」
「……」
「外で食べるよりも」
「…うれしい」
口元に手を当てた陽さんは、今日一の笑顔を見せた。
「夜が遅いと作り置きだし、直接感想なんて聞けないから…」
「なんかごめん」
「ううん、言ってほしいわけじゃないんだけど、味が好みかどうかわからないまま置いておくことも多いから…」
そう言って、私に笑顔を向ける。
「聞きづらいこと聞いてくれてありがとっ」
「私も聞けてよかったです、個人的な疑問だったし」
「俺の好みが?」
「いえ、陽さんの美味しい手料理が」
「港の好みに興味なんてあるわけないじゃん」
「ふふ、それもちょっとありますよ」
「季蛍ちゃんやさしー」
自然と笑顔が作れるこの空間は、心地が良くて仕方がない。
戻りたくないと思ってしまうことが、情けない。
さり気なく時間を確認しながら、そんなことを思っていた。