「こんなものしか作れないけど」
テーブルの隅にトレーを乗せると、私の手前に小さな器が置かれた。
トマトベースの野菜スープが、白い湯気を立てている。
「いいんですか?夕飯まで…」
「もちろん。それに、心配だし」
「……」
朝から何も食べていないと、うっかり口を滑らせた。
今、とてつもなく後悔している。
「私が季蛍ちゃんの立場なら、こういうことは余計なお世話だなって思うと思うの」
「そんなこと…っ」
「ない?…私は食欲がないとき、放っておいて欲しいって思ってしまう」
「……」
「食べなくていいから、一応置いておくね」
「…ありがとうございます」
本当はもっと気に掛けてくれているのだ。
口には出さないだけで。
「こっちは私の分」
そう言って傾けた器の中には、私の分とさほど変わりない量のスープが入っていた。
「こんなもので十分だよね」
「ふふ、はい」
自然と頬が緩み、無理をしなくたって笑うことができる。
気を使わなくたって、許される。
嫌なことを忘れていられる。
「楽しいです、ここにいると」
「嬉しい!ずっといたっていいよ」
陽さんのふわふわした笑顔を見ていると、本当に落ち着く。
求めていたのだ、こういう環境を。