ドアをノックしてから、診察室の中に入る。
「起きてる?」
両腕で顔を覆っていた季蛍は、「はい」とだけ返事をした。
「熱、測ってないでしょ」
数時間前、測るようにと置いていったにも関わらず、そのまま放置されている。
「ないです」
「うーん…ちょっと顔赤くない?」
と、手を伸ばしたその瞬間。
「やっ…」
気配を察したようで、体ごと逸らされた。
「ごめん。…そういう感じか」
拒む拍子に合った目は 充血している。
顔が赤いのはそのせいか。
泣いていたのだな。
「何があったか聞いていい?ちょっと様子おかしいからさ」
「…なんでもないです」
「そうは見えない」
「……」
「どこか痛む?そういう顔をするんだけど」
「…どこも」
振り絞った声が、俺に そう だと知らせているように思えた。
「診察、蒼先生に代わろうか」
「…いやです」
「先生でいいです…」
そう言われては代わりようがない。
「俺でいい、か。ハハ…」
「…先生がいいです」
「言い直さなくていいけどさ」
何か理由があるんでしょ?
どうしても避けたい理由が。