「…ありがと」
人の隙に入り込むのがやけにうまいのだ。
制止する余裕などない。
背中のシャツを強く握り締め、顔をグリグリと押し付けてくる。
胸に顔でも埋め込む気かと、問いたくなるほどだ。
「髪乾いたからベッド行って」
肩を引いて離そうとすると、縋るように戻ってくる。
「あのさぁ…」
そう言いかけて背中を叩くと、潤んだ瞳が持ち上がる。
「泣き虫だねえ」
「…うるさい」
「やたらと泣いてた理由がわかった」
「…」
「薬持ってくから」
相変わらず涙がシャツで拭われると、両手が首へ回った。
ほのかに香るシャンプーのいい匂い。
子どもに似た幼い匂い。
まぁ、少しくらいは…
と気を許す俺の甘さの引き出し方を、愛香はきっと知っている。
高さを合わせるように体を屈めれば、回された両手に強く身を引かれた。
「安心、する」
泣いてしまうのを堪えながら、絞り出された声が届く。
上目遣いに騙されることなどしないが、赤く充血した瞳には胸をキュッと摘まれた。
「…はぁ」
少し強引に扱うことが許されない中、そんな顔をするのだ。
こっちの身にもなって欲しい。