明かりをつけると同時に、思わず声を呑んだ。




就寝済みかと思いきや、ソファーに背中が見える。





「電気くらいつけろ」





声を掛けるが反応はない。




眠っているのか?そんなところで。







「愛香、起きて」



「…起きてる」





肩を叩くと、俯いていた顔が上がった。




ソファーの側には荷物が放り出されていて、この状況に至るまでの経緯が見えるようで呆れてしまう。




再度顔が俯いた。




そんなところで寝られると、運ばなきゃならない。








「電気も付けないでさ…」




前方へ回ってみると、様子がおかしいことに気がついた。




眉を寄せ、苦痛に顔を歪めている。







「…何かあったの」




「…そんなんじゃない」




軽く巻かれた髪が顔を覆っていて、表情はよくわからない。








「…はぁ」








一度ため息を吐き、足元にしゃがみ込む。








「相当気が滅入ってるな」



「……」




「話は聞く」




「…何も、ない」




「…。」







指先で髪を払ってみると、下唇を噛み締めていた。






「何もない顔か?それが」




「……っ」







巻き髪を耳に掛けてやると、瞼が閉じると同時に涙が頬を伝っていく。





「黙っててもわからない」





数日前の感情を引きずっているようにしか思えないのだが、『そんなんじゃない』と言われればそれまでだ。





「…本当に、何もない」




「……」





眉間に皺を寄せ、苦痛に顔を歪めている。




まるで 泣き出しそうな子供のようだ。




もはや笑えてくる。





「もう寝ろ、疲れてるんだから」





それにすら首を振られると、手立ては何もない。





「話は聞くから」




「……」




指先で顎を持ち上げる。




「なんていうか…」




潤んだ瞳を捉えると、顔は俯いた。




耳に掛けていた髪が、再び落ちる。




「……いたい」




絞り出されたその声には、未だに迷いがあった。




直前まで悩んだようだ。




「何が」




顔周りを覆ってしまった髪の毛を再度耳に掛けてやると、若干の動揺を見せた。




「お腹痛い…」




「……」




「…だけ」




「……」




「本当に、大丈夫…」




「…ああ」





無意味にはぐらかすので、理解に時間を要した。





「正直に言えばいいでしょ」



「……」



「俺に隠すことじゃない」



「だって…」




どさくさに紛れて胸の中に倒れ込もうとするので、肩を制して押し返す。




「涙を拭こうとするな」




「ちがうもん…ッ」




制したにも関わらず強引に上半身を埋めると、胸に顔を押し付けた。




「拭いてんだろ、俺の服で」




「……」





拒む間もなく両手が背後に回り、体重を支えるため やむを得ず床に座り込む。





数日前から子どもと同等な泣き虫だとは思っていたが、今事情は理解したつもりだ。





「…ほら、寝る支度してきて」





あやすように背中をさするのだが、二歳児への扱いのようで笑えてくる。