「愛香一人の問題?」
その言葉に、伏せていた顔を上げた。
「少し焦り過ぎ」
「だっ…」
『だって』と言いかけて口を閉じた。
奏太と目が合うと、その先は出なかった。
奏太が冷静すぎるんだ。
「焦らなくていいと数日前に言ったにも関わらず、誰かの言葉を一人で抱え込もうとする」
「……」
「一人で子どもを産むつもりか?」
「……」
「一人で育てるつもりか」
「……」
「一人で悩みを抱えるというのは、そういうこと」
奏太の声は 心なしか柔らかかった。
つい甘えそうになる声だった。
ポロリと涙がこぼれ落ち、無意識に溢れる情けなさには 少し笑えた。
「そんな状態でよく仕事に行ったな」
ティッシュの箱を滑らせた奏太は、明らかに苦笑していた。
実のところ 記憶はない。
頭と心が忙しかった。
それでも恐らく、涙は引っ込んでいただろう。
溢れてしまうのは 奏太のせいだ。