物音を立てないよう、玄関の扉を閉めた。
手の力が抜けると同時に、荷物が床に崩れ落ちる。
胸に手を当てると、早い鼓動が伝わってきた。
その場に一度座り込み、崩れた荷物を整える。
手鏡に顔を映すと、嫌になるほどひどい顔をしていた。
…が、特に問題はないだろう。
指摘されるほどではない。
「…よし」
買い物袋とカバンを抱え、取っ手に手を掛ける。
今日の夕飯は私の担当だ。
少しはいいものを作りたい。
大丈夫、リセットしなきゃ。
息を軽く吸ったあと、扉を手前に引いた。
リビングに奏太の姿はない。
どこかホッとしている自分が情けないと思ったが、本当の意味では心細かった。
今は、感情を抑えきれなくなってしまいそうだ。