食欲などあるはずもないが、売店で軽食を購入した。
今すぐにどうにかしなくとも、話しておきたかった。
嫌悪感を抱かなければならない、この現状を。
軽く、笑い話のつもりで。
ビニール袋を揺らしながら向かった食堂で、視界に捉えた蒼の姿。
瞬間的に周りが見えなくなって、喉まで出ていた不快感をぶちまけたくなって。
背後から肩に手を置きかけて、ようやく視野が広がった。
「…あ」
向かいに座っていた港くんは、固まった私に笑顔を向ける。
「ごめんなさい、気が付かなかった」
慌てて手を引っ込めるのと同時に、視線が向けられる。
港くんが気を使ってその場を離れようとしたのだけれど、そのあとの雰囲気の中、話せる自信もなかった。
予想通りの質問をする蒼にビニール袋を掲げ、この場は無事に切り抜ける。
カモフラージュなんて、慣れたものだ。
それからその場を立ち去って、出かけていた言葉は丸々飲み込んだ。
こんな話はあとにしよう。
今すぐに どうにかなる話でもないのだから。