「蒼──」
肩に手を置きかけた季蛍さんは、目が合うと慌てて手を引っ込めた。
「ごめんなさい、気が付かなかった」
「ん?構わないよ」
「いえ、あとで大丈夫です」
と微笑んだ季蛍さんのことを目で確認した蒼は、トレーに箸を置いた。
「どうした?」
「ううん、何でもない」
用があることは確かだが、こちらに気を使っているようだ。
「季蛍さんいいよ、俺もう行くから」
「大丈夫です、本当に」
『諸連絡くらいあとでも平気です』
と再度笑った季蛍さんは、その場を立ち去ろうとした。
すかさずその腕を蒼が掴み、
「昼は?」
と尋ねる。
「買ったよ、ほら」
季蛍さんがビニール袋を上げると、満足そうに頷いた。
「珍しいな」
「お腹空いたから」
『すみません、行きますね』
季蛍さんに頷いて返事をすると、狭そうな椅子の間を通り抜けて立ち去っていった。
「良かったのかな?何かを言いに来たみたいだけど」
「いいよ、後で聞いとくから」
「…季蛍さん、あんな感じだったっけ?」
「…というのは?」
「いや、少し印象変わった気がして」
「痩せたということなら、俺もそう思う」
「そうか。顔色悪くてちょっとびっくりした」
「当直明けっていうのもあるけど」
「あぁ、眠れてないんだね」
「恐らく」