薬の効果が現れたようで、気分は安定していた。


さっきまでの不快感は消え、視界の揺れは収まった。






その間、奏太は車内で目を閉じていた。


今日も激務だったはずだ。


奏太の睡眠時間を削った責任は重い。






「…もう大丈夫だよ?」



窓の外に目を向けた奏太に声を掛けると、その視線は私へ。


そうして車のエンジンが掛かる。





再度走り始めた車は 自宅方向へ。



時間帯のせいか、道路は閑散としている。








静まり返った車内には、走行音がやけに響く。



運転席へ視線を送るが反応はなく、再び窓の外へ目をやった。








「…奏太」



考えるよりも先に、言葉は漏れていた。


心のどこかで思っていたことが、突然押し寄せた。


言わなければいけない、と。








「本当にごめん…」



「……」






本来ならば自力で帰るはずだった。


それがこうなっているのも、奏太からの連絡があったからだ。







少し間が空いたあと、返事があった。



「辞めてよかったと思ったか」


「…ううん。そんなことない」


「随分と気が変わるのが早いな。単純にも程がある」



確かに私は、そんなことを言った。


退職すると職場に告げたその日の夜に。



「辞めてよかった」と。





「辞めたのは今の職場が嫌いなわけじゃないから…」


「……」


「だから、やっぱり寂しいし残りたかった」


「うん」


「…でも、今のままじゃ迷惑を掛けるだけ」


「……」


「そういう意味での 辞めてよかった だから…」




と、そんなことは説明しなくたって奏太はわかっているはずだけれど。


こういった気持ちを保つには、今はこうしているしかなくて。


そうじゃなければ戻りたくなってしまいそうで。





「まぁ、それでいいと思う」



奏太が呟いた言葉に、胸がぎゅっとした。



「…うん」














「…やっぱり、奏太は子どもが好きでしょ?」




少し間が空いたあと、



「好きだよ」



と返事があった。










「愛香は?」


「…うん、子どもは好き」















「焦る必要はないんじゃない」










その言葉に、涙が込み上げそうになった。



内心ずっと嫌だった。



そういった質問を掛けられ、期待はずれだというような顔をされること。





「ありがとう…」





心がずっしりと重たかった理由が、わかったような気がした。