「……」
車が走り出してから数分が経っているだろうか。
その間の沈黙は妙に長く感じられた。
運転席からの異様なオーラは、隣に座っているだけで察することができる。
あれから数時間後、帰宅手段を失った私は 呆然と店の前に突っ立っていた。
当然同僚からは声を掛けられたが、『大丈夫』だと断った。
それ以前に気分が悪く、思考が働かない。
例の『彼』には駅まで送ると言われたが、旦那が迎えに来ると言った。
もちろん、そんな約束などしていないけれど。
嘘をついた理由は特になかったが、今は誰かに連れ回される方がつらい。
自販機で水を買い、ベンチらしきものに腰を掛けたところで、携帯電話に着信があった。
嫌な予感とは当たるもので、すぐに反応できずにいた。
電話が切れたあとメッセージを確認すると、数件 帰宅時間を問う連絡が。
数秒後 再度電話が鳴り、
「どこにいるんだ」
との声に思わず謝ったのは、今から数十分ほど前のことになる。
病院からこの店まで一時間ほどかかることは、迎えが来るまでの所要時間で判明した。
途中で帰宅するべきだったと後悔しても、今更だ。
「薬を服用していながら酒を煽るとは」
赤信号で停車すると、その沈黙は破られた。
「先生には報告せざるを得ないな」
冷たい視線を拾い、思わず身を乗り出す。
「違うよ!?私は飲んでない!」
「どうだか」
「勧められても断ったから」
「一杯くらいは気を許したか」
「飲んでないよ、…飲めるわけない」
誤解されるのが嫌で主張したが、奏太はプイッと視線を前へ。
何度言っても信じないんでしょ?
別にいいけれど。
「信用されなくてご不満か?」
窓の外に目をやった直後、フッと笑った奏太が言った。
「鏡越しに見ないで」
「信じてないわけじゃない」
「…。本当に飲んでない」
「…わかった」
「……」
「数年酒と無縁な愛香が煽ってくるとは思えない」
「…じゃあ聞かないで」
「それほどの匂いをまとって来たから言っただけだ」
「…だって、周りの人すごい飲むんだもん」
再び訪れた沈黙の間に、そっと視線を右へ。
「何?」
「…なんでもない」
「奏太?…ごめんね」
「…。酒を煽って?」
「迎えに来てもらっちゃって!」
真剣に謝ったのにも関わらず奏太は楽しそうで、不満気な表情は隠しきれなかった。


