「あ、そうだ。次は同じような仕事に?」


飲まないのなら と、彼がグラスを口元へ。


「そうですね、同じような仕事です」


「ここを退職する理由は何か?」


「体調不良が一番の理由です」


「そんなのみんな気にしてないですよ」


「…ありがとうございます。でも、やっぱり」


「休養してから復帰という考えはないんですか?」


「迷惑を掛けたくないんです」


「迷惑だなんて誰も思ってないですよ」


「…そうですかね」


「むしろ待ってる方が多いと思いますけど」



…というのは、少し嬉しかった。


辞めることを伝えた時は寂しがってくれる同僚や後輩もいたので、続けるのも悪くないと思った。


だけれど同時になんとなく、続けられないと思った。


今は復帰しているが、これ以上休養期間を得るわけにもいかない。


けれど体は言うことを聞かないので、立ち上がれないほどの目眩に襲われる時が来る。


環境を変える以外に方法が見当たらなかった。





「こういうのとか飲みます?」


いつの間に注文していたのだろうか。


「多分美味しいですけど」


カクテルが置かれるが、即座に首を振った。


「ごめんなさい、大丈夫です」


「アルコールが無理?…あぁ、わかった」


思いついたように頷いた彼は、何故か声を潜めて言った。


「妊娠ですか?」


「…はい?」


「それならこれらを飲まないのも、仕事を辞めるのもわかります」


カクテルのグラスを自分の方へ寄せた彼は、クイッと口角を上げた。


「違います」


無意識にため息が漏れる。


「違うんですか」


「違います」


話に乗るんじゃなかったな、と後悔し、水の入ったグラスに手を伸ばす。


「お酒が苦手だなんて知りませんでしたよ」


作り笑いをした。それが精一杯だった。


グラスが一瞬 二重に見えたのは、疲れかな、と思った。