来なければ良かったな、と 後悔した。
「愛香さん」
お酒の匂いをまとった彼は、断りもなく隣に腰を下ろした。
「あんまり気乗りしないですか?こういうの」
「あ、いえ…そういうわけでは」
「減ってないから」
細長い指先が、手のつけていないグラスを指した。
「お酒とか飲めない方でした?」
「飲めなくは…ないですけど」
「味がイマイチ?」
グイッと顔を覗き込んだ彼は、次にグラスを回した。
「まさか、一口も飲んでいないとか」
口紅がついていないことを確認しての発言のようだったが、それには少しため息が漏れた。
「そういう気分ではないだけです」
「…そうですか」
そもそも運ばれてきたドリンクは、私が頼んだものではない。
『送別会』と言われて嫌な予感はしていた。
最初は遠慮するつもりでいたが、現場の流れに逆らうには、それなりの理由が必要だった。
体調不良といえば嘘ではないし、この会社を辞職する理由のひとつでもあるのだが…
自分が関わっている『送別会』は、常識的に参加するべきだと思った。
だけれど今は、そういった感情を払って断ればよかった、と後悔している。