「そういうことで言えば、俺よりもキツいだろ」
緊急手術からの通常勤務であれば、睡眠時間は30分あればいい方だ。
「さすがに寝させてもらうけど。今はほら、心配だし」
「人の心配するよりさぁ…」
「自分の心配をしろ、でしょ?…永菜ちゃんがよく咲に言ってる」
「…ふふ、そうだよ」
「わかってる、俺の方は大丈夫だ」
"じゃ、また後で見に来る"
そう言い残した松山は、片手をひらひらとさせて病室を出て行った。
まだ起きる気配はなさそうだな…。
髪にそっと手を伸ばし、指先で触れて微かに撫でる。
手先から伝わる温もりと、柔らかく優しい感触。
耐え切れずそっと触れた頬は、今にも溶けてしまいそうだ。
「永菜…」
目が覚めるはずもないが、構わず名前を呼んだ。
虚しく病室に響いた声が、少し情けなくもある。
数時間後には目が覚めると思うが、できるのならばここにいたい。
…と思いつつ、時計を確認し 重い腰を上げた。