「診てないからなんとも言えないな…。どうするかの判断は咲に任せる」
「わかった、もう少し様子を見るつもり」
「こっちはいつでも対応できるようになってるから」
「ありがとう」
「結構ショックを受けてないか?俺はそっちの方が心配だよ」
「それなりに」
「まぁ、無理に連れてこなくてもいい」
「そうだね、できるだけそうしたい」
電話を聞いているのか、永菜は時々こっちを気にかけるように顔を上げる。
電話を切ると、すかさず永菜が言った。
「松山先生?」
「そうだよ」
「…病院、やっぱり行く?」
「いや、……永菜はどうしたい?」
「……」
「痛み、どうだ」
「…ちょっと強くなってる」
「…。もし無理だと思ったらすぐに言って?」
「…本当はもう楽になりたい」
「今から病院に行く?我慢なんてしなくていいんだぞ」
「でも、家にいたいのも…本当だから…」
俺も全く同じ気持ちだ。
口に出すことはできないけれど、できればこの場で良くなればいいと思っている。
ただ、目にするのは痛みに耐える永菜ばかり。
もう『我慢の限界』は、通り過ぎているのかもしれない。
「咲」
「うん」
「病院、…戻る」
"病院に戻る"
その言葉が、今の自分には辛かった。
あくまでも入院中なのだ…。
何年か続いている入院生活が当たり前だったはずなのに、永菜のいる4日間が自分の日常に溶け込んでいた。
病院に行くのではない。
戻るんだ…。
「わかった」
永菜はもっと辛いはずだ。
痛みに耐える中、下した決断。
計り知れない辛さがあったに違いない。
それでも、何も分かってやれない。
体に現れる痛みも、心の中の苦しみも。
何も、一つも。