「熱はないな」
3時間程眠っていたみたいだ。
体温計は、さっきと同じ数字を示した。
「大丈夫だよ」
…なんて、信じてもらえる訳がない。
けれど気持ちに嘘はない。
昨日から楽しみにしていた外での食事だ。
これくらい、このくらい…
耐えられる──
「大丈夫?」
「うん、頭痛くらい我慢できる…」
そう言うと咲は困った顔をして、二つの手のひらで頬を挟んだ。
「我慢できる?」
「できる…」
「その痛みをしばらく我慢できるのか?」
「…できる」
「休める場所なんてないんだぞ」
「……できる」
自信がなくなっていく様子が伝わったのか、咲は笑っていた。
「様子見よう。まだ時間はある」
「……」
「無理をして嫌な思い出になるのはもっと嫌だよね」
「そうだけど…」
「少し休んで良くなったら行こう。約束」
「…うん」
結論なんて、もう分かっていたのかもしれない。