「いいね」


試着室の扉を開けると、咲はそんな反応を見せた。


「似合う」


「…そうかな?」


「ほら、後ろ向いて」



鏡に映る自分の姿。


咲は後ろからひょこっと顔を出し、


「いいじゃん、すごく似合うよ」


そう言って笑って見せた。


「これにする…」


「よし!決まり」






しばらく見なかった女の子らしい自分の姿。


鏡をじっと見つめていると、夢の中にいるような気持ちになる。





「気に入らない?」





つい、鏡を見たままぼーっとしてしまった。


夢のようで。


幻のようで。





「ううん、すごく気に入った」


「そうか。ならよかった」


頬を手のひらで包まれたかと思えば、鏡越しに咲が言った。


「ほら、表情が固いのが映ってるぞ?」


「……本当だ」


悲しい訳でもないはずなのに、鏡に映る私の表情は固まっている。


「永菜、…体調悪い?」


背後からそっと耳元で囁く声に、慌てて何度も首を振る。


「そんなことない…!」


体調が良いことは事実だけれど、咲にそう感じさせてしまうのが情けなかった。




「現実かどうかわからなくなる…」


ボソッと呟いた声に咲はピクリと反応すると、ププッ…と肩を震わせて笑った。






「そういう顔だったの?」


「…うん」


「永菜は夢の中にいる可能性があるわけ?」


「それくらい幸せだってことだよ!」


「そうか。鏡を見つめたまま黙り込むから心配したよ」


「ごめん…、ちょっと信じられなくて」





「心配して損したなぁ」


そう言って笑う咲に、私も釣られて笑ってしまった。




その隙にまた頬を掴まれ、


「ほら、その顔が一番いい」


鏡越しにそう囁かれた。



「永菜、その服いいね。可愛いよ」


「…ッありがと」