「ごめんごめん」


電話を終えた咲は、申し訳なさそうに謝った。


「病院からでしょ?」


「うん、よくわかったな」


「…今から行くの?」


「ううん、大丈夫だよ」





"すみません、お願いします"


咲が電話の向こうへ謝る声が、私には聞こえていた。


私が家にいられるということは、咲の仕事の範囲はもちろん狭くなる。


病院にいる時間は通常の半分以下にもなるし、私との時間を優先するようになる。


松山先生は


"大丈夫だよ、こっちに何かあったときはちゃんと呼ぶから"


と、私の不安にそう答えてくれたけど。






ずっと入院しているからこそ、担当医の先生が与える安心感が理解できる。


だからこそ、本当にいいの?そう思う。





「永菜?どうした?」


考え込んでいたせいで、咲は物凄く心配そうな顔をした。


「ううん、何でもない」





「…永菜、気にしなくて大丈夫だよ」





それもまた、見破られるんだけど。







「咲が忙しいの知ってるの」


「うん」


「咲は1人しかいないでしょ?」


「うん、そうだね」


「私は家にいられて本当に嬉しい」


「それはよかった」


「だけど咲は…?本当に大丈夫なの…?」






咲はちょっぴり驚いた顔をしたけれど、すぐにフフッと笑った。


「そこまで考えてくれてたのか〜」


向かいから身を乗り出し、両手でワシャワシャと顔を撫でられる。


「永菜」


「…ん」


「ありがとう。でも大丈夫だ」


「……」


「そりゃ、何かあれば俺は病院に行く」


「…うん」


「な?永菜は気にしなくていい」


「うん…」


「スッキリしたか?」


「うん…」


「なんだよ、その顔は」


指で頬を挟まれ、ププッと笑われる。


「永菜のために買ったんだから。食べよう」


「…咲?」


「なんだ?」


「今日本当に楽しかった」


「……。よかった」




頭をクシャッと撫でられると、また椅子に座り直した。