しばらく車を走らせると、目的地が見えてきた。
その気配を感じ取るのに 時間はいらなかった。
「潮の匂いがする!」
窓を少し開けると、永菜はそう言って目を輝かせた。
「こんなところに来るの、いつぶりだろうね」
「そうだな、俺はしばらく来てない」
「私も」
目的地が見えてから少し進んでいくと、人の少ない場所を見つけた。
車を止めて外に出ると、生暖かい風が頬を撫でていく。
「見て!?」
車を降りてすぐに指を向けた永菜は、嬉しそうに俺の手を引いた。
「ねぇ、見て!」
「見てる」
「行こ!」
急がなくたって海は逃げねーよ、
なんて思いつつ、喜ぶ姿を見ているのは楽しい。
「ずっと来たかったの」
広がる青景色を前に、永菜はボソッと呟いた。
「そこ座ろ?」
「うん、いいよ」
隣に並んで腰を下ろすと、少し、懐かしさを感じた。
「咲、ありがとう」
「うん。どういたしまして」
それっきり永菜が何も話さなくなると、波音だけがハッキリと聞こえてくるようになった。
誰もいない砂浜に2人。
時々永菜が「綺麗だね」と言ったり、視線を感じて顔を向ければ、慌てて前を向いてしまったり。
そんな流れるような時間を、この青景色の前で2人。