「遅くてごめんね?」
俺が食べ終わって間もなく、懸命に口を動かしていた永菜が言った。
「いいよ、ゆっくり食べてて」
「まだ時間かかるよ?」
「うん、待ってる」
「えー」
「何だよ、"えー"って」
「じゃああっち向いてて?」
「…壁」
「咲に見られてると緊張して無理なの」
「緊張って何?」
「わかんないけど焦るの!」
「わかったよ…、食べ終わったら持ってきて」
「うん!」
自分の食器を重ねてキッチンへ行くと、永菜は再度箸を手に食べるのを再開させたようだった。
口に入れる度、顔に現れる感情を見ているのが楽しくて。
素直に『美味しい』と、顔に出るそれが大好きで。
もう少し見ていたかったのだけど、焦ると言われればしょうがない。
それでもあんな顔が見られるなら、気合を入れて食事を作ってよかったと思う。
いつもは億劫な食器洗いが、今日はそんなこともない。
食事は自分で作るといっても、ほとんどの場合買ってきたものを食べる毎日であったから、ちゃんとした食事は久しぶりだ…。
今日の昼食は何にしようか、
今日の夕食は何にしようか。
そんなことを考えられる
ほんの少しの小さな幸せ。