「「いただきます!」」
いつぶりなのか、わからない。
二人で迎えた平日の朝。
「私が好きなのばっかりだね。咲くん」
「そうだよ。ちゃんと考えたからな」
「ありがとう」
微笑む永菜が最初に手に取ったのは、慎重に作った豆腐の味噌汁。
「うん、美味しい!」
一口飲むと、目を見開いてそう言った。
「どうやって作ったの?」
「いや、別に普通だよ」
「こんなに美味しいお味噌汁初めて」
「…ホントかよ」
「本当だもん、何だか体に染み渡る気がする」
"温かいお味噌汁 久しぶりだからかなぁ"
独り言のように呟くと、あっという間にお椀を空っぽにした。
「美味しかった」
「…。ありがとう、そう言ってもらえて嬉しい」
早く起きて作った甲斐があったよ…。
「きっと今の咲くんは私よりも料理が上手だね」
「俺はそんなに作れないよ」
「お味噌汁ここまで作れたら十分でしょ?」
「永菜の作るご飯だって美味しいよ」
「ふふ、覚えてないでしょ!」
「そんなことない」
「嘘。私が作ったのなんて、うーんと前だもん」
「覚えてるよ、熱があるのに無理矢理キッチンに立って作った恐怖のオムライス」
「…あぁ、そんなのも確かにあったかも。よく覚えてるね?」
「だろ?」
永菜が入院してから、嫌でも料理は自分で作るようになった。
以前に比べれば料理の腕が上がったのも事実だ。
けれど永菜の作った料理の味は、忘れることなく覚えている。
それがずっと前のことでも。