吐き気止めが入れられてから数十分。
眠気がやってきたのか、洗面器を抱えていた両手に力が入らなくなった。
「眠れそうだね…、よかった」
松山が洗面器をベッドサイドへ移してやり、毛布を上まで引き上げる。
「…松山先生?」
「うん?」
「あの…」
「うん」
「外泊…いつできますか…?」
「…外泊?」
予想していたものとは異なる言葉に、驚いたようだったけど。
「ふふ、気になる?」
「……はい。」
「そうだな、考えておこう」
「はい…お願いします」
松山をしっかり捉えていた目は、今にも溶けてしまいそうだ。
「頑張ったな…」
一定のリズムで優しく胸を叩いていた俺は、眠りに落ちていく永菜に向かって、そう呟いた。
「永菜ちゃん、そろそろ家が恋しいって?」
「そうみたいだよ」
「今すぐには無理だけどね。そうできるようにはしたいと思う」
「助かる。楽しみがあれば頑張ると思うから」
「わかった、よく考えておくよ」