──コンコン




いつものようにドアをノックし、中を覗いたところで察しはついた。




永菜の笑顔は 毎日見られる訳ではない。




「おはよ」


「…おはよう、今日早いね?」


「だろ!」


「…だってまだ朝だよ?」


「時間が空いた」




トレーの上の食事は、ほぼ手がつけられていなかった。


ほんの少し、ゼリーは食べた形跡がある。


それ以外は全くだ。







「今日天気いいね」


「そうだな」


さり気なく首筋に手を触れ、そして額へ。


桃色に染まった頬は、体温を伝える。





「咲くん…」


「何?」


「麦茶、飲みたい…」


「わかった、ちょっと待って」








「永菜、お茶」


麦茶を注いだコップにストローを差して渡してやると、両手でゆっくり受け取った。


「ありがと…」


微かに触れた手は熱い。





「冷たいの、つけたい」


「冷えピタ?」


頷いたのを見て腰を持ち上げると、カコン…と何かが落ちる音がした。


振り返ると、麦茶の入っていたコップが床に転がっている。


そのときの永菜の表情といったらもう…。




「ごめん咲ッ…」


「いいよ、気にしなくて」





幸い服やシーツは濡れていなかった。


中身は全部床にぶちまけていたけれど。





「私が拭くから…ッ」


「永菜?戻って」


「……」


「新しいのに入れるから」


「…ごめん」


「気にしないでいいって言ったろ?」






ベッドの中に戻った永菜は、コップを受け取った。