「ずっと俯いてたから、とんでもなく具合が悪いのだと思った」


「私がそんな人を放って奏太くんに声を掛けたと思います?」


「はは、そうは思わないけど」




愛香が体調不良だということに間違いはなさそうだけれど…ね。






相変わらず目を合わせようとしない愛香は、奏太くんの胸元当たりに視線を向けた。


「今から帰るの?」


「…うん」


「そうか。薬は?」


「………」


黙ったまま薬の入った袋を胸元まで上げると、


「もらった…」


小さくそう呟いた。









「薬…変えてもらった…」





言葉を続ける愛香の顎を奏太くんが人差し指で軽く持ち上げると、愛香は一度大きく呼吸をする。





「何?全然聞こえない」


「…ッ、薬………、」








言葉を詰まらせると、その目にはうっすら涙が浮かぶ。



「なんだよ…」



奏太くんは呆れたように笑ったが、頬には一筋 涙の線を作った。





身体も気持ちも疲れ切っていたら、目が合うだけで安心してしまうものなんだなって。


愛香は無意識で、そんなつもりでなかったのだと思うけれど。





「んもう、いい…帰る…」



自分はそんなつもりでなくても、溢れる感情も涙も、抑制することは難しい。



「季蛍ありがと…」



そう言い残して背を向けた愛香に、


「まさかとは思うけど、歩いて帰るなよ」


と奏太くんが言葉をかける。





微かに頷いたのと同時に聞こえた



『そんな訳ないでしょ…』






「そんなことがあったから言ってんだ…」


再度呆れたように苦笑すると、そんな風に呟いた。