『こんなに病院広いのに、偶然会うなんて変だよね』
「偶然にしてはね」
なんて返事をしたが、視界に入った彼の姿を見つけてそう思った。
「奏太くん」
白衣のポケットからは、小さいウサギが顔を覗かせている。
「おっ?」
向こうは私に気がついていなかったようで、目が合うと驚いたように笑った。
愛香は意図的に顔を逸らしたので、まだ奏太くんもその場にいるのが愛香だとは気がついていないのだと思う。
「動物、変えました?」
「変えた!よく気づいたね」
「この間まではカエルだったと思います」
「そうなんだけど、不評なんだよ」
真顔で不満そうに呟く奏太くんは、ウサギを指差すと
「こっちはみんなに喜んでもらえる」
と言った。
「でもわかります、カエルがちょっと不評な理由」
「色が不人気なのかも」
そう言ったところで、奏太くんもずっと顔を背けている愛香を少し気にかけた様子で視線を移していた。
普通はそこまで顔を背けたりしないもんね。
「…本当はたまたまなんかじゃないんでしょ?」
数秒の間が空いたあと、若干俯き加減だった顔がゆっくりと上がる。
「…愛香!?」