「大丈夫なの?」


「全然平気、何も問題ないよ」






そうやって微笑んだ愛香は、処方された薬が入っていると思われるビニール袋をさり気なく背後へ回した。



「…。もう帰るの?」


「うん、…ぼちぼち」



目の腫れも赤みも引いていないし、顔色も悪いままだ。


"何とか病院に来た"


そんな感じ。




「季蛍に言われた通り、薬のこと話してみたの。別のものに変えてもらえたから楽になるかも」


「本当?やっぱり考えてくれたでしょ?」


「…うん、もう少し早く言ったら良かったかも」


「じゃあ今日から様子見だね」


「そう、マシになったらいいんだけどね」





「…愛香って担当の先生小児科だっけ?」


「まさか」


「うん、知ってたけど」





…だってここは小児科のロビーだから。






「何か用でもあったの?」


「そういうわけじゃないんだけど……、


……たまたま通っただけ」


「ふーん…、そっか」






恐らく愛香の担当医がいる外来のロビーからここへ来るのはとても遠回りになる訳で、病院を出るために「たまたま」来てしまったとは思えない。


病院の院内図が頭の中にあるせいで、そんなことまで無意識に考えてしまった。


意図的に寄ってみた


ことに間違いはなさそうだけれど…。








「もしかして、奏太くん?」


「…え?」


「ここ、小児科だし」


「違う違う、そんな訳ない」


「なーんだ」


「なーんだ、って…」


「ふふ、ごめん。気になっただけ」


「そういう季蛍こそ、何でここに?」


「私は用があっただけ」


「買い物でも行くの?」


「……なんで?」


「だって、お財布抱えてるじゃない」




可笑しそうに笑う愛香に、ハッとなる。


「持ってることを忘れてた」


「そんなとこ、季蛍らしいよ」


「…なにそれ」