パッと見ただけじゃ状況はわからないが、肩を震わせているのは背後から見て分かる。
洗面器に吐いているというよりは、吐き出していると言った方が正しいかもしれない。
無造作に置かれた白いビニール袋に手を伸ばすと、顔を上げた愛香が咄嗟に掴んで抱えるように隠した。
洗面器の中を確認すれば、ほぼ固形のまま薬は吐き出されている。
「来ないで」
消えかけた声が聞こえたが、構わず聞き流した。
「泣いてんだな」
「泣いてない…ッ」
「流れてんぞ」
「…ッ」
頬に伝った一筋の涙を指先で拭ってやると、不満そうに睨んでくる。
「はい」
そんな愛香に例の忘れ物を見せると、目の色が変わった。
「どうして…ッ!?」
「先生から受け取った」
「先生に会ったの…!?話したの…?」
焦った様子の愛香の目からは、ポロリと涙がこぼれる。
「忘れてったから渡して欲しいって」
「…ッ」
「それだけ。特に話はしてない」
それを受け取った愛香は、再度背中を向けた。