「奏太先生」
呼び戻しかと力を抜いて振り向くと、予想外の人物が立っていた。
「…あれ?」
「はは、帰るところでした?」
「あぁ…、いえ、お久しぶりです」
「そういやしばらくでしたね」
「小児科には滅多に来られないでしょう?」
「僕はね。用があまりないから」
「でしょうね」
ハハハ、と陽気に笑った彼は、思い出したようにポケットに手を突っ込んだ。
「愛香さんの忘れ物、よかったら渡してもらえます?」
「はい?…忘れ物」
流れで手を出して受け取ったハンカチ。
「次回会うときにでも…と思ったけど、予約少し間が空くから奏太先生に預けておきます」
「…次回?」
前回の受診は随分と前だったと思ったが…。
「これ、いつのですか?」
「今日の受診時です」
「今日?」
「はい、今日の外来で」
「…そうですか、ありがとうございます。確かに受け取りました」
「探しているかもしれないからね」
「そうですね、多分探してます」
「じゃあ届けてよかった。それだけです。引き止めてすみません」
「いえ、わざわざありがとうございます」