「…あ!」
それからしばらくして夕飯を食べていた時、季蛍が突然声を上げた。
「電話、…出ていい?」
「もちろん」
それまでほとんど動きのなかった箸を置くと、携帯電話を手に席を立った。
「もしもし…ッ」
落ち着かない様子でリビングを右往左往しながら、何度か『大丈夫なの?』と問い詰める声。
電話の最後には
『無理しないで』
と伝えると、電話を切って席へ戻ってきた。
「今日の仕事休んで家で眠ってたみたい」
表情が少し柔らかくなった季蛍は、ホッと胸を撫で下ろした。
「明日主治医の先生に診てもらうって」
「そうか、…ならよかった」
「あんなに元気の無い声、初めて聞いた」
そうやって苦笑する季蛍は、ようやく箸を持った。
「奏太くん今日は帰らないのかな…」
「あぁ、今夜当直だって言ってたな」
「じゃあきっと今回も言わないつもりだよね」
「今回に限らず奏太んちは言わないんじゃないのか?」
「そうかも。…って、普通病院に行く報告なんてしないよ」
「その話は別でしょ」
「…そうだけど」
「まぁ、だから余計に奏太は気が付かないんだな」
「奏太くんだって気づいてたら放っておいたりしないよね」
「あぁ…、奏太でもな」
…とは言いつつ、ちょっと確信はなかったりもする。