「季蛍は何してんの?」
帰宅すると、携帯電話を握りしめたまま動かない季蛍がいた。
「愛香からの連絡待ってるの」
ここ何日か続いて病院に来ている愛香さんの話を季蛍にしたところ、季蛍も直接相談を受けていたと知った。
体調不良が続くことは少なくないので気に止めることは無かったが、今日の外来の様子を見ると
『体調不良が長引いている』
だけでは説明がつかない。
点滴を受けたら仕事に行くということも、外来のときに聞いた。
奏太はそれをいつものように『本人がどうにかする』と眺めているだけなのだろうか。
それともそんな異変には気がついていないのか。
そんな気持ちから奏太に声を掛けた訳だが、奏太の反応から見ると気がついていないのだろう。
愛香さんが主治医ではない外来へ受診に来ているところから見て、素直に奏太に話をするとも思えない。
「まだ仕事中なんじゃないのか?」
「…だといいけど。
…あ、そう言えば奏太くん、なんて?」
「奏太は多分気づいてないよ。"別に"って」
「やっぱり言ってないんだね、愛香」
「言わないだろ、奏太には」
「大丈夫かな…、ホント心配」
俺が首を突っ込むのは避けるが、季蛍は連絡を取った方がいい。
愛香さんも季蛍を信用しているからこそ、相談を持ちかけたのだろう。
「奏太くん、何も言ってなかった?」
「いや、何も」
「忙しいもんね…、当然だよ…」
『愛香も少し頼れたらいいのに』
変化のない携帯電話の画面を見つめながら、季蛍がそっと漏らす言葉。
奏太の仕事が忙しく頼りづらいという愛香さんの気持ちも理解した上での
奏太に頼れたらいいのに
という意味合いなのだろう。
いくら付き合いが長いからといって、素直に頼るのは簡単なことじゃない。