結を引き取るために実家に寄ると、玄関まで力強い足音が聞こえてきた。
数歩歩いて転んだが、本人はやりきったような満足顔だ。
「ゆい、ただいま」
「あ!」
這いつくばってこちらへ来る結を抱えると、なんだか甘い香りがする。
「少し上がって行ったら?」
結を追ってきた母親がそう言ってくれるが、今は陽の体調を配慮したい。
「今日は帰るよ。遅くなってごめん」
「いいのよ…、陽ちゃんは?」
「車で寝てる」
「あまり無理をさせたらダメよ」
「わかってる」
昼間陽が無事に駅を出られたら、結を迎えに行くことになっていたけれど。
結果的に結を引き取るのが遅くなってしまった。
けれどこうしてご機嫌でいてくれると、こっちとしては助かるよ。
「ゼリー食べてからご機嫌なのよ」
「あぁ、その匂いか」
「とにかく、陽ちゃんとまた遊びに来てね」
「わかった。…また改めてお礼する」
「いいの、そんなの」
結が腕を伸ばすと、母親がその小さな手のひらをぎゅっと握った。
「じゃあね、ゆいくん」