「あっ、港くん…」
リビングへ戻ると、季蛍さんが心配そうにこちらを見ていた。
「大丈夫、ありがとう。一応明日病院に行くよ」
「そうですか、わかりました」
「季蛍さんがいてくれて本当に助かった」
「私は何も…」
そんな話をしていると、陽が部屋から顔を出した。
支度が終わったみたいだ。
「今日は本当にありがとう」
「陽さん…、手の痛みは大丈夫ですか?」
「大丈夫。頑張って明日病院に行こうと思う…」
ちょっと浮かない顔をしているが、そんな陽に季蛍さんは微笑んだ。
「また会えるのを楽しみにしてます」
「ありがとう、季蛍ちゃんが声を掛けてくれなかったらどうなっていたかわからない」
…俺も正直そう思う。
「雨降ってるから傘持っていきなよ」
玄関で靴を履く陽を待っていたら、蒼がわざわざ傘を持ってきてくれた。
「いいよ、車までだし」
「陽さんのために」
「…、ありがとう。本当に助かる」
陽の右手が使えないことを配慮してか、大きめの傘1本。
小さな配慮と大きな優しさ。
「お世話になりました」
陽が小さく頭を下げると、季蛍さんも会釈を返した。
「早く怪我が治るといいですね」