季蛍さんにトイレの場所を案内して戻ってきた陽は、リビングに置いていた荷物を抱えて寝室へ入って行く。


一瞬陽に目を向けた時に顔を逸らす仕草が気になって、俺もあとを追う。




「…陽?」


「なに?」



荷物を整理していた陽の返事を聞いて、ハッとした。





声は震えている


…気がした。






「いや、…処方箋は見たんだけど、薬は?」


「……」


「今日は受け取ってない?」


「…ん、もらったよ」






この返事を聞いて、確信した。


声は 震えている。






「…どこ?」


「あ、…あとでもいい?」


「うん、いいけど…」





一度もこちらに顔を向けない。




帰宅した時に見せたあの笑顔は、無理に浮かべたものだったのか?


心配させないように、無理に振舞っていたのか?





俺はどうするべきなのかと考えていたそのとき、横に揺れた陽の体は床に崩れ落ちていく。



「…ごめん」



倒れないように支えてやると、陽は最初にそう言った。



「具合が悪かったのか」


「ううん、違うの」


「…違う?」


「そうじゃなくて…、ちょっと目眩がしただけ」




支えている腕の中で、陽はそっと目を閉じる。




「また季蛍ちゃんに迷惑掛けたくないもん…、言わないでね?」


「…具合が悪い訳じゃないんだな?」


「大丈夫、だって季蛍ちゃんに診てもらったんだよ」


「…そうだな」





原因は安易に想像できる。


眠れない、眠りたくない。


数日間ろくに睡眠を取っていない陽の体は、少し立っているだけで目眩を起こすようになっていた。




「も、平気だから」


支えていなくてもゆっくり立ち上がり、カバンの中からビニール袋を取り出す。


「薬」


「あぁ、確認する」


「私、顔色悪い?」


「…少しな」


「季蛍ちゃんと蒼くんは心配してもらうために来てもらった訳じゃないもん…」


「顔色悪いって心配しそうだもんな」


「…でしょ?」


「まぁでも…、あんまり無理しなくていいから」


「してないって」





寝室を出て行く陽を追うと、既に季蛍さんはリビングに戻っていた。