「そろそろかな」
互いに仕事を挟みつつそんなことを呟くと、玄関を開ける音がした。
楽しそうに会話をしながら、部屋に入ってくる様子がわかる。
扉が開くと、陽に促された季蛍さんが顔を出した。
「お邪魔します」
「季蛍さん、お疲れさま」
「私も来て良かったんですか?」
「もちろん。…今日はありがとうね」
「いえいえ、どういたしまして」
季蛍さんを部屋の中へ上げると、続いて陽が顔を覗かせた。
…思っていたよりも柔らかい表情に少しホッとする。
「おかえり」
「ただいま」
俺と目が合うと目尻を下げて笑い、荷物を抱えて部屋の中へ。
「あ!蒼くん、こんにちは」
「こんにちは。久しぶりだね」
「そうですね、しばらく会っていなかったような」
暗い顔で帰ってきたら何て言葉を掛けようかと思っていたが、そうでなくて安心した。
ただ、寝ていないだけ。
眠れないだけ。
陽への負担は大きいが、目に映るのはいつもと同じ陽だった。