「ただいま」


玄関で一度ポツリと呟くと、リビングから足音が近づいてきた。






靴箱の上に家の鍵を置いたところで、玄関へやってきた陽の両手が背中に回る。



「…かえり」



危なかっかしい足取りでやってきた陽は、若干震えた声で言った。



「なんだなんだ、寂しかった?」



胸に顔をグリグリ押し付け、両手にぎゅっと力が入る。



「港のバカ…」


「はいはい、とりあえず中入らせてよ…」





陽の背中を優しく叩き、体を引いて離したけれど。


磁石みたいに引っ付いて来て、結局そのまま部屋の中へ。





「なに?泣いてんの?」


「泣いてないし!」


「声震えてんじゃん」


「るさい…」






強引に体を離し、右手で顎を上げた。


「…ほら。泣いてる」


「違うもん…ッ」


「違うの?」


「ホッとしたら泣けてきちゃったの…」





指先で涙を拭うと、陽は大きく息を吸った。





「今日はおつかれさま」


「…ん」


「ありがとうね。結は?」


「寝てるよ…」


「そうか」


「今寝たばっかりだから起こさないでね」


「わかってる」







「…え、なんで知ってるの?」


「何が?」


「ゆいのこと…なんで…?」




不思議そうに問う陽を背に、とりあえず荷物を下ろした。


「奏太に聞いたよ」


「…そうなんだ」


「夜中は大変だっただろ?」


「…ううん、そんなことないよ」





「そうか。でもありがとう」


「…ん。」