外来を終えて時計を見ると、昼食の時間から1時間が経過している。



今日は小児病棟の看護師がピアノを弾いてくれると、外来で一緒になった看護師が言っていた。


…ちょっと様子見に行くか。







少し騒がしい部屋の中に入ると、同期の先生が1人壁に寄りかかって眺めていた。



「涼先生」


「おう、…見に来たの?」


「どんな様子かと思って」







子どもの好きな歌が流れると、治療中じゃ見られない輝いた笑顔が見られる。


普段泣いてばかりの子だって、看護師と手を繋いでニッコリ口角を上げるんだ。


子どもの笑顔はとても素直で癒される。










「せんせい…」



小さい声が聞こえて隣に視線を移すと、目を擦りながら涼先生に近寄る子の声だった。



「なに?楓」





『みやま かえで』

手作りの名札を胸元につけている女の子は、涼先生の右手を握って隣にぴったりくっついた。





「なーに?」


涼先生がしゃがんで目線を合わせると、楓ちゃんは頭に手をくっつけて言った。


「たたかれた…」


「叩かれた?」





涼先生の胸に体を押し込む楓ちゃんを、涼先生は優しく離して問う。


「誰に?」


「……」


「楓?」


「…ちゃん」


聞き取れないほど小さな声で呟いた楓ちゃんの口元に耳を持っていった涼先生だけど、やっぱり聞こえなかったみたい。







「ん?」


「…小春ちゃん」


「小春?」





頷いた楓ちゃんの頭を、涼先生が手のひらで撫でてやる。



「小春!」


「なに?りょーせんせい!」


「ちょっと来て」


「…なんで?」


「いいから来なさい」





パタパタ走ってきた小春ちゃんは、小さい指で楓ちゃんを指さした。


「あ!かえで!」


「…ねぇ、小春?楓のこと叩いたの?」


「え?だってわたしのおもちゃ取ったもん!」


「小春、叩いたの?」


「だっておもちゃ…」


「先生、叩いたの?って聞いてるの」


「…ちょっとだけだよ」


「叩いたのね」






小春ちゃんの手を引き、涼先生は体を側に寄せるけど。



「やだ!」


怒られると察したのか、小春ちゃんは俺の手を掴んで体を寄せる。


「先生、この人こわい」


「奏太先生は関係ない」


「…だって涼先生嫌だ」


「話すことあるから」



握っていた手を離し、涼先生がその手を掴む。






「取られても叩いちゃいけない」


「…だって」


「小春はわかるよね?叩かれたら痛いよ」


「……ごめんなさい」


「楓も勝手に取ったらダメ」


「…ごめんなさい」






「よし、2人も仲直りして?」




「楓ごめんね」


「小春ちゃんごめんね」


「いいよ!」


「わたしも、いいよ」





「ん、えらいな小春。楓も。もう叩いたらダメだよ」


「わかった!」





そう言ってまた走って戻っていき、楓ちゃんにも笑顔が戻った。




「仲いいんだよ、ああだけど」


「仲直りも早かったな」


「病室一緒だし喧嘩多いけど」


「そうなんだ」


「…小春、奏太先生に助け求めて」



そうやって苦笑する涼先生。



「"涼先生は嫌"って、怒られるの察してたね」


「すぐに"嫌い"って、俺のこと」


「…はは、子どもは素直」