それから数十分後、奏太が戻って来た。
ちょうどその頃点滴も終了し、針を抜いて止血を済ませる。
「ありがとう。意識の確認したいから起こすね」
「うん」
夏来の胸を優しく叩き、奏太が何度か声を掛けると、すぐに目を覚ました。
「おはよう、夏来くん」
「…はよ」
「気持ち悪くない?」
「…大丈夫だよ」
「よかった。終わったから家に帰ろうか」
「…パパは?」
視線が泳ぐので、顔を覗き込んでやる。
「…パパ」
「帰ろうな」
「うんッ…」
うっすらとではあるが、笑顔も見られて安心した。
「ゆっくり体起こして」
夏来の背中を支えてやった後、奏太がベッドの側にしゃがんで言った。
「朝起きたときとお風呂から出るときは、ゆっくり体起こしてあげてね?」
「わかった!」
「気持ち悪くなったら、スーハーって深呼吸して」
ゆっくり深呼吸して見せる奏太を真似て、夏来も大きく呼吸を繰り返す。
「上手だな。完璧」
頭を撫でられると、嬉しそうに頬を緩ませた。
「奏太 ありがとう」
「いいえ」
靴を履き終えると、ベッドからゆっくり立ち上がった。
「先生、ありがとう」
「どういたしまして。おだいじに」
「また来るね!」
「…はは、できれば元気な夏来くんと会いたいかな」
夏来が『また来る』ときは、何かあった時だろ…?
苦笑しつつ、会いたい気持ちもよくわかる。
温かくて小さな手を握り、診察室を後にした。