「最初ね?蒼のことを見たとき、泣きそうになった」
「…どうして?」
「わからない。…すごくホッとした」
「…そうか。よかった」
「家のこと全部丸投げでごめんね…?」
季蛍は咄嗟に窓の方を向き、手で頬を伝う涙を拭った。
「季蛍が一人でやることじゃないでしょ?」
「そ…だけど…」
「…高島は怖い?」
「んふ、なんで?」
「ホッとするほどピリピリしてるのかと思った」
「…ううん、優しい」
「そう。よかった」
「でも…、厳しい」
「…そうだな」
それも全て季蛍のため。
季蛍自身も、それをわかってる。
「…来てくれてありがと。夏来は?」
「今は高島が相手してる」
「そっか。…懐いてくれてよかったね」
「案外大丈夫だったな」
季蛍は微笑んで頷き、右手を伸ばしてきた。
「…握って?」
「……」
両手で包むように握った右手を軽く引いて、そっと体を抱きしめる。
握った手のひらは、熱い体温を伝える。
「無理してるのよくわかる。少し寝た方がいい」
季蛍が抱きしめ返したのを感じて、そっと体を離した。
「また来るから」
「…うん、待ってる」
季蛍が涙を堪えているのが分かり、
"我慢するなよ"
そうやって声を掛けたくなった。
けれど、我慢する理由がきっとある。
俺が余計なことを言ったら、きっと季蛍が辛くなる。
「じゃあ…、行くね」
頷く季蛍を背に、荷物を抱えて病室を出た。