「こんにちは」
「…にちは」
意外と人見知りを発揮せず、少し安心した。
高島には何度も会ったことがあるから、全く知らない他人とは少し違うのかもしれない。
「んね、いこ?」
白衣の裾を引っ張って、
"早く病室に行きたい"
と催促する夏来。
「わかった、行くから」
季蛍の状態と検査結果を簡潔に聞いたが、良くも悪くもない結果。
ストレス性の過呼吸が今朝だけでなく頻繁に起こるらしく、高島も面会をすることについてしばらく悩んだと言う。
けれどこうして夏来を連れてくることが出来て良かった。
夏来だけでなく、季蛍の回復に繋がってくれればいい。
「あんまり調子良くない?」
「…っぽいですけど、夏来くんの前なら多分無理します」
俺も同じくそう思う。
「忙しいのにありがとう」
「いえいえ」
「夏来、病室に行こう」
「ん!」
「挨拶して?」
「…、さようなら…ッ」
"さようなら"
の五文字を残して背後に隠れてしまった夏来だが、すぐに顔を覗かせてクスクス楽しそうに笑った。
「んふふ。夏来くん、さよなら」
目線に合わせてしゃがんでくれた高島が小さく手を振ると、夏来も嬉しそうに両手で手を振り返した。