それから30分間眠ることもできずに、布団の中でただ目を瞑っていたけれど。



……コンコン



ノックの音が聞こえてしばらくすると、ドアがそっと開けられる。




「入るよー?」




また "食べろ" って言われるんだ。





椅子に座る音が聞こえて、近くで気配を感じる。




「季蛍?」


布団を軽く叩かれて顔を覗かせたら、高島先生の苦笑いが見える。


「ご飯は?」


「……」






顔を上げたら、もうそこにはお盆がない。



「何も手つけてなかったから」


「……ごめんなさい」


「怒りに来たんじゃない」







テーブルに置いてあった白いビニール袋を手に取ると、中から何かを取り出した。



「"食欲ないの目に見えるから"って。

…もちろん、蒼先生から」





フルーツゼリーがいくつか出てくる。






「無理しなくていいよ」


5つ並べ終わると、高島先生は首を傾げて言った。


「どれにする?」


「オレンジ…ください…」




手のひらサイズの小さなオレンジゼリーと、小さいスプーンを受け取った。




「水は飲める?」



経口補水液のペットボトルが2本、同じビニール袋から取り出された。



「飲め…ない」


「…どうしても?」






頷けばどうなるかはわかっていても、正直飲める気がしない。



微かに頷くと、高島先生は席を立った。




「ま、わかってたけどね」




点滴のパックをどこからか取ってきた高島先生は、手際よく準備をした。






痛みを構える暇もなく、点滴の針が刺さる感覚があった。






「オッケー、何かあったらナースコールしてね」


「…わかりました」


「何かあるか?」


「…大丈夫です」


「りょーかい、じゃあ行くね」






また、眠れない夜が始まる。