部屋に入ると、寝息が聞こえていた。
蒼先生がベッドの傍らに座り、手で優しく頭を撫でる。
すると季蛍は目を覚まし、さ迷う目線を蒼先生に向けた。
「…おはよ。起こしてごめん」
季蛍は首を横に振り、左手を伸ばして蒼先生の手に触れる。
「……」
蒼先生は、その手を優しく握った。
「苦しかったのはどこ?」
季蛍の右手がそっと胸に当てられる。
「発作じゃないんだよな」
頷く季蛍の口元が動き、蒼先生が耳を寄せる。
微かに聞こえた季蛍の声。
「…ん?」
「…っかい、……ったの?」
" 学会だったの? "
正装でいることに疑問を抱いたらしい。
「そう、さっき終わったところ」
互いの予定を把握していないことはよくあることかもしれないが、季蛍がそのことを知らないことに少し驚いた。
互いの予定を確認する余裕がないということは、それほど二人の時間もなかったのだろうなと思う。
蒼先生が珍しく、季蛍の異変に気が付かなかった理由がわかったような気がした。
「検査結果見て少し高島と話してくるね」
「…わかった」