「蒼は?」
「後から来るみたいで」
飲み会の途中、内科のテーブルを抜けた季蛍さんが俺の元へ来た。
「あの、隣に座ってもいいですか?」
「いいよ」
季蛍さんは安心したように笑い、腰を下ろす。
「向こうは居づらい?」
「いや、お酒勧められるから」
苦笑いの季蛍さんを見て納得した。
「蒼がいればまだ断れるけど、1人だとどうしても流れに逆らえなくて」
ため息をつくその顔色は、心做しか悪い。
「お酒飲めないのに来ていいのかな」
そう笑う季蛍さんだけど、無理しているようにも見える。
「参加は断りたくないけど…ここ居づらくて」
目を伏せた季蛍さんが軽く咳き込むのを見て周りを見渡し、すぐに理解した。
季蛍さんの顔色が優れないのはそのせいか。
体調の変化を感じて俺の元へ助けを求めに来たのだろう。
席の選択をこだわらない主催者のお陰で、外科の先生はタバコを吸っていた。
季蛍さんの言う"居づらい環境"でピンと来た。
「上梨先生」
斜め左でタバコを吸っている彼に声を掛けると、季蛍さんはそれを止めるように俺の体に触れる。
「タバコ、控えてもらってもいいですか?」
「あぁ、ごめんね」
「すみません」
彼は手を合わせて謝り、席を離れて店を出た。
季蛍さんのことを知っている医局仲間なら理解しているだろうが、面識のない外科の医師は気づきもしないだろう。
「季蛍さん、一旦外出る?」
「でも…感じ悪いかなって」
「そんなことないよ」
「何もないのに外に出たら変じゃないですか?」
「変じゃないよ、…今までずっと我慢してたの?」
「タイミング逃しちゃって…」