「疲れてるところにごめんなさい」


「いいのいいの、嬉しい!」


そう言って体を起こし、布団を剥いでベッドに座る。





「退院おめでとうございます」



季蛍さんからの手土産に、陽は嬉しそうに顔を綻ばせた。




「大したことないのに!」



「でもあんまり食欲がないって聞いて」



「…港?」



「…ふふ、はい。」








お粥を食べさせてやった日から、いい報告が来なかったのは本当。


毎回半分以上余るお粥を見て、看護師も随分と心配してくれた。


退院当日の最後の朝食も、驚くほど手をつけなかったと言う。






「よかったら食べてください」






陽の気持ちをわかってくれる季蛍さんだからこそ選べるもの。


心の底からありがたい。







「いつも気にかけてくれてありがとう…」


「いえ、私は何も。」


「今度うちに来てね?」


「ぜひ!」






季蛍さんと楽しそうに会話をする陽が元気そうで安心した。





「季蛍さんは仕事あるからそろそろね」


陽に説明すれば、納得したように頷いた。


「すみません、本当はもっといたいのに」


「いいの、忙しいのにわざわざ会いに来てくれてありがとう」


「いえ、退院後も何かあったら遠慮なく言ってください」


「うん、そうする」






陽からも何度かお礼を伝え、季蛍さんは先に部屋を後にした。





「陽、昼は寝てたの?」


「ううん、起きてた」


「だってさっき横になってたよね」


「たまたまだよ…」


「…。昼食食べたくないから?」


「……」


「最後の食事だよ」


「…寝るからいらない」


「今から寝てたら退院できない」


「だって港 食べろって言う…」


「……。そんなに食べたくない?」





寝た振りするほど食べたくないものを無理に食べさせるのも、ちょっと気が引ける。




「…だって」





俯いてしまった陽だが、ちょうどそこへ昼食が運ばれてきた。





「最後のお食事になります」



入院初日から優しかった看護師が、相変わらず温かい笑顔で食事のお盆を持ってきてくれる。






「あら、先生」


「ありがとうございます」


「回復されて良かったですね」





看護師にもお礼を伝えると、彼女は陽の顔色を伺って笑った。




「浮かないお顔、体調悪いですか?」


「昼 食べたくないって言ってます」


「最後のお食事だから少し豪華なのよ」






"特別にフルーツもつけてもらいました"




クスクス笑う看護師が部屋を出ていくと、陽がフルーツの入った器を手に取った。




「食べるから怒んないで…?」


「…。別に怒ってないよ」